|
夏の眩しい朝日を浴びて、森の緑の中でも白い壁がなお映える、歴史ある豪奢な洋館―――遠野の屋敷。 重厚な扉の向こう、静かなクラシカルミュージックが優しく流れる、広い居間。 その居間のソファーに深く腰掛け休む、一人の女性が居た。 脇に流れる長い髪も黒く艶やかに美しい、遠野の当主―――秋葉。 一足先に試験休みに入っていた。 今朝は日頃は共に出来ない朝食を、兄と一緒に過ごし語らい、学校へ送り出して後、穏やかな朝を過ごしていた。 そんな静かな一時であるが―――ちくり―――かすかに、胸元に違和感を感じた。 ナニカ、大事な何かが流れ出たかのような――――― ―――――訝しむ、秋葉の耳に、信じたくない言葉が、飛び込んで、来た。 「大変です! 遠野くんが交通事故で病院に……!!」
「…なんでも、朝の登校途中にダンプカーにぶつけられたとか!」 突然、居間に駆け込んできたシエルの言葉だった。 「え、な、なな、何ですって?!」 驚愕の表情で跳ね立つ秋葉。 後ろでは使用人の翡翠が、無断で屋敷内に飛び込んで来たシエルに、抗議しようとしかけたその姿勢のままで硬直している。 そのシエルはよほど急いで走り込んで来たのか、肩で息をしている。 一瞬の呆然とした表情も、つかの間。 「どこの誰です?! 私の兄さんを傷つけたのは?! 絶っっっ対に許しません!!」 鬼神の形相で、秋葉は一足飛びにシエルに掴み掛かる。 顔色も真っ赤なら、その逆立つ髪も燃え盛るように鮮やかな真紅。 反転全開秋葉ちゃん。 「あらあらら〜、どうかなさったんですかー?」 むやみ朗らかな声が、危険な雰囲気に満ち満ちている居間に響く。 夕食の後片づけをしていたのか、割烹着をたたみながら、遠野屋敷のもう一人の使用人、琥珀が部屋に入ってきた。 「ね、姉さん…志貴さ・まが、…」 青い顔をして、翡翠が答える。 「あ、大体の事情は厨房でも聞こえました。それで、志貴さんの容体は?」 「は?! そ、そうです?! 兄さんは?! 兄さんは無事なんでしょうね?! 先輩っ?! 答えてくださいっ?!」 秋葉は掴み握りしめたシエルの襟首を派手に振り回しながら、問いただす。 「返事はっ?! せ〜ん〜ぱ〜いぃぃぃ〜っ!!」 「あ、あの秋葉さまー? 頚動脈キマってますよー。それでそんなに激しく振られては、さすがにシエルさまでもー」 「え、は?」 秋葉の腕でくびり上げられたシエルの首は、力なくただ下を向いて手足もろ共ゆらゆら揺れていた。 「それに、志貴さんとイノチを繋げていらっしゃる秋葉さまに大きな異常を感じないという事は、志貴さんの命に別状は無いという事です。落ち着いて下さい、秋葉さま」 「え、あ、そ・そうね」 秋葉がシエルを捉えていた腕を離すと、琥珀が崩れ落ちようとしたシエルを抱き留め、ソファーへと寝かせる。 そして袖口から、何か小瓶を取り出し蓋を開ける。 「ウ、ゴホッ!」 そのまま、小瓶をシエルの顔に近づけると、すぐに咳込みながらも意識を取り戻す。 「大丈夫ですかー、シエルさま?」 「あ、あれ? わたしは…?」 「志貴さまの事故の件で、秋葉さまにお話があったんじゃありませんか?」 「そうよっ! 兄さんの容体は?!」 「志貴さまはご無事ですか?!」 3人顔をそろえて詰め寄る遠野勢。 「え…えぇ。どうやら命に別状は無いようですが…」 「「「無いようですがっ?!」」」 さらにズズィっと。 迫る3人。冷や汗をうかべながら下がるシエル。 「意識が戻らないそうです」 3人の頭を真横一閃。衝撃の稲妻が駆け抜ける。 「…そ、そんな…」 呆然とした表情の秋葉は、かすれた声を出す。 「今は、アルクェイドが側に居ます。…と言うか、彼女とそのダンプのドライバーが病院に運びこんだらしいのですが…」 「あああの性悪化け猫! また兄さんを巻き込んで、何かっ?!」 また反転、激しく吠える秋葉。 「詳細はまだ分かりません。ですが、遠野くんに借りがあると言って離れないんですよね」 シエルは困ったように、額に手を当て唸る。 「うーん、ちょっと心配ですねぇ。アルクェイドさんの事ですから、またご自分の超常能力で何とかしようとしてしまうかもしれませんねー」 「…姉さん、何とかって?」 「あ、ほら、翡翠ちゃん? 以前にもネロ教授、ですか?吸血鬼さんの使い魔を利用して志貴さんのお身体の欠損部を補完なさったじゃないですか?」 「わたしが危惧するのも、その事なんです」 琥珀の意見にシエルが同意し――――― 「そんな非常識な事させるものですかっ!!」 時を置かずに秋葉が叫ぶ。 「琥珀! 車を支度なさい!! 出ますっ!!」 真っ赤に燃える鬼気溢れる気配をまとい、秋葉が殺気だだ洩れな眼光で琥珀へ振り返る。 その姿に翡翠がビクリと脅える。が、琥珀は笑顔を崩さず、トトトと秋葉に近づくと 「だめですよー秋葉さま。まだシエルさまのお話しが終わって無い様ですから」 そのまま秋葉の顔を両手で挟み、妙な指の動きと勢いをつけるとクキリと180°捻って、首だけをシエルの方に向き直させる。 「……!」 それを眼前で見てしまった翡翠は、また顔を引きつらせている。 「ちょ、ちょっと琥珀?! な、何をしたのよ?! 背筋が、突っ張って……」 「えへへー。先日、時南先生から教わった、整体術の応用ですー」 「姉さん……体術の目的が違う……」 「さて、シエルさま? 続きをどうぞ」 琥珀は、これまでのやり取りを唖然と見ていたシエルに声をかける。 「……あ、はい」 コホンと、軽く咳払いをして続ける。 「要はですね。アルクェイドを遠野くんから引き離すのに、秋葉さんの手を借りれないかと、思って来たんですよ。あのアーパー破壊魔の相手は一人ではキツいですし(いつもなら遠野くんにパートナー頼むのですがね)」 「ふ、ふふふ、そうね。まだあの無礼な泥棒猫が兄さんの側に居るなんて、心配でしょうがありませんわ(兄さんの側で看病するのは妹の私の役!)」 お互いが言外に呟いた声が聞こえたのかどうか、二人は不敵に笑い、見つめあう。 「「……ふふふふふ……」」 「秋葉さまー? その格好で笑われているの、ちょっと怖いですよー」 「アンタがやったんでしょうがっ?!」 頭と体の向きが逆転したまま、秋葉が吠える。 「あははー、細かいことは言いっこなしです。それより秋葉さま?お車の支度も出来たようですが?」 言うと琥珀が、窓を指し示す。 丁度、玄関の前に艶やかな黒塗りのセダンが横づけになる所だった。 「では、秋葉さまー」 琥珀が白くしなやかな細い指を、まるで蟲の如く不規則にわきわき蠢かせながら秋葉へにじり寄る。 「ちょ、ちょっと琥珀。その手の動きは何? も、元に戻してくれるんでしょうね?」 琥珀色の瞳は怪しく輝くばかり。 「ええ、当然じゃないですか? 遠野の当主としてそのまま外出される訳にはいきませんもの。えぇ、決して、このまま360°大回転したら面白いだろうな〜なんて考えてはおりませんよ。えぇ、もちろん……多分」 「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁっ?!」 「行ってらっしゃいませー! 秋葉さまー! シエルさまー!」 やたら明るく朗らかな笑みと共に、琥珀は屋敷から秋葉達を送り出した。 その後ろには翡翠が居る。 いつもの事。 屋敷の留守を守るのが、使用人の勤めなのだから。 翡翠は、志貴の元に向かいたい―――はやる心をそう押えていた。 と、そんな翡翠に琥珀が声を掛ける。 「さて、翡翠ちゃん。ちょっとお願いがあるのだけど……手伝って貰えないかしら?」 「……?」 その言葉に、翡翠は軽く小首を傾げて答える。 ズガシャァァァッ!! 静謐をもってあるべき病院に、激しい破壊衝撃音が響く。 往来の通行人が、驚きの表情をもって見上げ、集まって来るその間にも、 大きな病棟に並び見える窓が、続けて幾つも内面から吹き飛んで行く。 そのうち黒く長く、ギラリ鋭く輝いて―――凶悪に鋭利な黒鍵が無数に飛んで来るにあたり、野次馬気分興味本位で集まって来ていた人々も、クモの子を散らすように逃げ去って行く。 遅れて何台もパトカーが駆け付けてくるが、病棟周囲をロープで囲い人が立入らぬ様にするのが精一杯の様だ。 彼らの理解を越える存在だった。 その病棟の中で、破壊の嵐を撒き散らしている、人外のモノ達は。 恐れに溢れる瞳で、人々が病棟を見上げるその先――― ―――今度は病棟の一角が、砂の様に崩れて消えた。 次第、次第に崩れ行く病院の中でも、なお戦い続けるモノが――― 「ハン! さすが年期の入った組織の構成員は、小賢しい謀り事が得意な様ね? 一人ではわたしに勝てないからって、志貴の妹を巻き込むなんて。でも、やっと認めた様ね? 貴方ごときがわたしに遠く及ばないと言うことに。解っているなら未練がましくこの町に残っていないで、田舎の教会に引きこもったらどう? 神様ごめんなさい。わたしは無知ゆえに無謀な間違いを犯しましたって懺悔しながらね」 言いながらも純白の吸血姫が腕を振るう。 その腕は、硬いはずのコンクリートの壁をたやすく裂き砕いていく。まるで発砲スチロールを壊していくかの様に。 それは圧倒的な破壊力。 「黙りなさい人外外道の大怪物。貴方がこの場所に居る事が非常識なのです。そもそも貴方は死徒殲滅が誕生意義ではないですか? 貴方こそ南米の密林でもアジアの寒村でも死徒狩りに向かったらどうです? だいたい貴方が関わると遠野くんの命が幾つあっても足りません。わたしが安全に保護しますから、用済み無用の人でなしは引っ込んで下さい」 ―――凶悪な腕を避け、間合いをとった黒い法衣に身を包んだ女が答える。 振り返った女の腕には無数の黒鍵が構えられていた。 その身体を回す勢いを加え、投射。 黒い雨が、純白の吸血姫に降りそそぐが、彼女は風のように跳び下がりその場を離れる。 黒鍵は壁を、床を、扉も窓も関係なく、貫き通っていく。 恐るべき貫通力。 「何を身勝手な事を仰っているのですか、お二人とも! 怪我人を看病するのは家族に任せて見舞いが済んだ顔見知りの方々は早々にお引き取り下さい。それとも、礼儀とマナーを再教育する必要があるのですか? まさかそれほどの無学な方々とも見えませんが。人外だけにすばらしく長生きのお婆ちゃんに、若作り高校生のおばさんでしたか? それともよほど実りの無い人生を送られて来たのかしら?」 紅い髪が脈打ち逆巻き荒れ狂う。 果てなく伸び行くその髪は、壁を覆い床を流れ天井を這い、全てを飲み込んで行く。 その真紅の結界の延び行く先、全ての存在はその熱量を奪われ――― 凍結。瞬間に崩壊。 遠野の血より宿った驚異の超常威力―――略奪――― 「お止め下さい、皆様」 破壊の暴嵐渦巻くその場に、燐とした一声が響く。 寸分隙無きメイド姿の翡翠が、崩れかけた廊下の向こうに立っていた。 そのすぐ脇には扉がある。 入院患者用の個室だ。 表札には、割り当ての患者名が記載されていた ―――――遠野 志貴 「これ以上の屋内での騒乱は、志貴さまに御迷惑がかかります。勝負事は外で行って頂けないでしょうか?」 「な―――――」 その言葉に険しい瞳を向ける三人。 「使用人が、主人に意見しようと言うの? 翡翠?」 付き刺さらんばかりの気配と共に、秋葉が言う。 「志貴さまの、為です」 翡翠はしっかりと顔を上げ、秋葉を見つめ返す。 だが前で握り合せた翡翠の手は、かすかに震えていた。 「……はぁ、しかたないですわね」 それに気づいたか、秋葉は一つ息をついて、鬼気迫っていた気配を緩める。 「ま、貴方なら兄さんに変な事はしないでしょうから」 「うん、まぁ、翡翠なら良いか」 「そうですね。翡翠さんなら、おかしな事はしないでしょうから。もし琥珀さんだったら、治療と称して変な薬の実験台にされかねませんからねぇ」 その秋葉にアルクェイドとシエルも同意している。 「3人、意見もまとまったようですね」 言うと秋葉は背を向け玄関へ歩き出す。 「妹ー、もーこの建物ボロボロだしこっちのが早いよー」 言うが早いかアルクェイドは窓―――そこには窓があったのかなかったのか、とにかく壁に開いた穴から外へ飛び出して行った。 「まったく、だからあーぱーはあーぱーなのですよ。どこが上品なお姫さまですか……」 ぶつぶつ言いながら、シエルは秋葉に続いて廊下を去って行く。 一人残された、翡翠の口元が――――― ギタリと歪んだ。 ―――――そして、数刻。 バキ! ミシミシミシ……ドシャァァァッ!! これが何本目だろうか。 病院の中庭の木が倒される。 外灯の柱は既に折れ曲がり、ベンチは砂と崩れ去っている。 続いていた闘いは、拮抗状態を作り出しつつあった、そこへ――― 「よぅ! 秋葉ちゃんじゃん? 何してんの?」 陽気に声を掛ける者があった。 常人なら一目散に逃げ出すその場の雰囲気をものともしないのか、気付かないのか、まるで学校で出会った時のような、気軽な声。 志貴の悪友、有彦だった。 ただ、いつもと違ったのは、隣に女性を連れている事だった。 「秋葉さん、あまりお外で能力を使われるのはよろしくないと思いますよ」 どこか場違いなのんびりとした声。 しかし、秋葉の事を、遠野の事を識る者。 時南 朱鷺恵。 遠野家の主治医、時南 宗玄の娘だ。 「……え、と、朱鷺恵さん? なぜ貴方がこちらに?」 困惑したような、秋葉の問い掛け。 「えぇ、先程連絡がありまして、今の病院ですと治療に支障をきたすとかで、こちらに志貴さんを移すという事になりまして、カルテや申し渡しとか残っていた手続きを」 「そー、オレ様が見舞いに来てやったら、遠野のヤツ、もうこの病院に居ないってよ……」 「「「な、何ですって?!」」」 その有彦の言葉を遮って、3人が叫ぶ。 「し、志貴がもうこの病院に居ないって?」 「あらら、いつの間に……」 「く……翡翠、どうやって」 3人それぞれ戸惑うところへ、朱鷺恵が話しを続ける。 「志貴くんを搬送に出す時はわたしも立ち合ったけど、翡翠ちゃん志貴くんと仲良いのね。志貴くんの意識は無かったけど、手を握って色々声を掛けて、意識不明の患者さんには、例え意識が明朗としてなくてもそういう事は大事なのよ」 「うにゃ〜〜今回は翡翠に抜け駆けされちゃったか? うーん、翡翠がそんな事するなんて……」 「はぁ―――さすが毎日、志貴さんのお世話をしているだけはありますねー。あれ、何か変ですね……」 アルクェイドとシエル、二人の言葉が終わらないうちに――――― どっぱぁぁぁぁっ!! 怒濤の様な赤髪が、津波の様に二人の背後から押し寄せる。 「……や、やってくれたわね……あの、泥棒猫っ!!……」 反転全開、秋葉ちゃん。 「ちょ、ちょっと秋葉さん、落ち着いて―――――!!」 「にゃにゃにゃ―――――これが噂の嫉妬暴走灼熱秋葉――――!!」 先の闘争の時の結界が、可愛く見えるほどの紅い嵐。 それが、辺り一面をなぎ倒し、略奪し、全てを砂へと崩壊させて行く。 「翡翠が! 兄さんに触れる事なんて、無いっ!!」 「うわわわわっ?! な何だっ?!」 「あら、あららら〜」 有彦と朱鷺恵もその場を離れる。 「よくも私の兄さんを勾かしてくれたわね!!―――――琥珀!!」 ―――――時、同じ頃。 町から離れた田舎道を、一台の救急車が走っていた。 赤色灯はつけていない。 と、一軒の医院の前で止まる。 その建物の前に、一人の少女が立っていた。 寸分隙無きメイド姿の少女。 その前に救急車が止まる。 「よいしょ……っと」 サイドのドアが開き、待っていた少女と同じくメイド姿の少女が降りて来る。 鏡に映った様に、同じ姿。 ただ、違うのは瞳の色。 診療所で待っていた少女の瞳は蒼く、降りて来た少女の瞳は褐色。 「お疲れさま、姉さん」 待っていた少女―――翡翠が、降りて来た少女―――琥珀に労いの声を掛ける。 「やっぱり、3人とも志貴さんを巻き込みかねない勢いで争ってましたよー。あ、志貴さんのお荷物はもう中ですか?」 その少女に、車から声が掛かる。 「すみません。患者さんはどちらに降ろせば……あれ?」 車から顔を覗かせた看護士が、目を瞬かせる。 「あ、私たち双子なんですよ〜」 琥珀がその戸惑いに気付いて答える。 「こちらへどうぞ。案内致します」 琥珀と翡翠、並んで医院の扉を開く。 志貴を乗せた担架が、中へと運ばれて行く。 と、翡翠が怪訝な声を上げる。 「……え?」 「? どうかしました?翡翠ちゃん」 「あ、何か黒い小さな影みたいなモノが見えたような……多分、気のせいだと思う」 「そぅ?」 そうして扉は閉められた。 自分の知らない七夜を知っている、遠野の主治医 時南 宗玄。 彼なら問題なく治療を任せられる―――――琥珀は、そう判断して志貴を連れて来た。 街中では得られない、静かに澄んだ大気。 安らかな空気。 志貴の寝顔は、ちょっとだけ和らいでいた。 (了) ●あとがき● うぃ、Qさんですー★ 今回は歌月十夜で、志貴君がダンプ交通事故―――なんて事になったら、周囲の皆は大騒ぎなんだろうなー、なんて考えた事が発端でした。志貴くんの入院先を勝手に時南医院にしちゃったりしてますが御勘弁下さい。 歌月十夜は面白かったですねー。 夏コミ以降数日は「歌月十夜」と王宮魔法劇団さんの「One way Love −ミントちゃん物語−」にハマリ込んでいました。かたっぽに詰るとかたっぽに移りーって感じで。 歌月十夜は当初さっちんの出番無しーって聞いた時は、かなーり残念でしたが、十夜を終わってみれば、今回はこれでもよかったのかなーとか思ってたり。 裏役になった事で、本編や夢十夜で−失われてしまった者−とゆー悲哀のスタンスも、切なくて良いなぁ、と。 あ、夢十夜で個人的に好きなのは「遠野家のコンゲーム」「黎明」「酔夢月」ですねー。 「遠野家のコンゲーム」は、もー琥珀さんのゲームマスターっぷりに限ります! 「黎明」は山瀬家の肖像が、個人的に大ストライク。 「酔夢月」はシキ同士の話が、なんか、もー、くるモノが。 「夏祭り」も良かったなぁ。 TYPE-MOONさんて、締めが巧いと思います。 本編の最後、琥珀さんの「おかえりなさい」 今回も、夏の終わり 祭りの終わり。 架空世界から現実への帰還と言うかゲームが終わった後の余韻を、何だか他の作品より深く味わえるような感じです。 さて、いつまで書いてもきりがないのでとりあえず、ここまで。 最後にちょこっとおまけです★ ●おまけ● 遠野の屋敷から車で30分。 自然に囲まれた、静かな場所。 時南医院。 陽は沈み、虫の声も涼やかに響く宵闇の刻。 今ここへ、超自然の驚異が迫りつつあった! 人類の天敵として、世界に想像された真祖を狩るもの。 かって人ならざるモノであった肉体と高度な魔術を駆使し、死徒を滅して行くもの。 この地に古くから棲まう、妖かしの血をその血統に受け継ぐもの。 白と、青と、赤と、三つの影が正面玄関をそのままぶち抜こうかという勢いで、時南医院に急接近。 それらが三位一体となって、たった一つの目的の為に襲撃を掛けようと――――― 「喝ぁぁぁつっ!!!!」 低いながらもよく透る、強い意志のこもった言霊が響く。 急停止した三つの影と、医院の建物の間には、一つ、精悍な男の影があった。 「……まったく、怪しげな気配が寄って来るから、何事かと思えば……」 時南 宗玄。 普段は薬剤師の顔を持つ、影の医師。 人外の暗殺者の組織に属していた過去もある。 「時南先生、こちらに兄さんが引きとられているとお聞きしております」 「そーだーそーだー志ー貴、かーえーせー!」 秋葉に続いてアルクェイドが抗議のシュプレヒコールとばかりに腕をふるう。 「短絡思考はお止めなさい愚劣吸血鬼。……で、どうなのでしょう? 遠野くんは私たちで責任をもって看護します。遠野くんの部屋は……おや?」 アルクェイドの抗議を止め、秋葉の言葉を引き継いだシエルだが、眼前には誰も居なくなっている事に気がついた。 「え……? 先生は?」 秋葉も怪訝な声を上げるが、その並んだ三人の背後の影、闇の左右から腕が伸ばされて生えて来る。 3人はそれに気付かぬまま―――― ゴキ 「きゃっ?!」「うにゃっ?!」「痛っ?!」 3つの頭は一纏めに互いに叩き付けられていた。 「い、たた?! 先生、何を?!」 「うにゃー! 左右が頭が痛いーにゃー!!」 「うぅ……埋葬機関のわたしが背後を取られるなんて……」 気配を断ち、3人の背後に回った宗玄が、3人の頭を左右から両手で挟んだのだ。 「この馬鹿者共が! ここは病院だ。騒ぎを起こすなら即刻帰ってもらうぞ?!」 「いえ、わたし達は……」 シエルが負けじと振り返り、抗議を続けようとするが――― 「何じゃ」 また、シエルの背後。 首筋の辺りから声が返る。 宗玄の方へ向いたはずなのに、宗玄はまたシエルの背後に居た。 「お嬢ちゃんがこの老いぼれの相手をしたいとお望みなら、ワシは嬉しいがの?」 「い、いい、いつの間に……」 「ふん。隠身は暗殺の基礎中の基礎じゃよ。草葉揺らさず、畜生に気取られず、虫も殺さずに動く事。この世界から己の存在を断つことなど、朝飯前じゃわい」 「くっ―――――さすがは、お父様が一目置かれていただけは」 「分かったら、素直に引上げてくれんかな? もう時間も遅い」 声はまた違う所から聞こえた。 玄関の前。 洩れる灯を背後に、強固な意志を感じさせる姿。 それはただ年老いた医師ではなく、いまだ現役の実力を秘めた、狩人の影を映していた。 「でも、それでも! 兄さんに逢わせて下さい! わ、私は事故にあったと聞いてから、一度も兄さんには……」 必死に食い下がる秋葉だ、が――――― 宗玄の言葉は無く、しばらく時が流れるまま互いに視線を絡ませる。 「……しょうがないお嬢ちゃんじゃな」 「え……それでは」 「まぁ面会くらいはよいじゃろう。ただし! 必ず一人ずつ部屋に入るんじゃぞ?! お主らはどうも相性が良くないようじゃの。3人揃って小僧の前で喧嘩されても困る」 「やったー! 志貴に会って良いんだね?!」 「だから騒ぐなと言われているんです。貴方には知識はあっても相変わらず学習能力は低いようですね」 「空いている部屋を、待ち合い室用にしてやる。中に入れ」 「あ、ありがとうございます。 って、こらそこ!じゃれあってないで静かになさい!!」 「うぅぅぅにゃぁぁぁ!!」 「き、ぃぃぃぃぃぃっ!!」 お互いの頬の皮を限界以上に引っ張り合った二人が居た。 「まったく、小僧も難儀な事だな」 「はぁ、せっかく静かに屋敷で過ごせると思ってたのに、です」 (嬢ちゃんも含めての) ぼそりと宗玄は呟きながら、玄関へ向かう。 「は? 何か仰しゃいまして?」 「はて? 何の事かの?」 宗玄はとぼけた表情で、玄関を開く。 「んんにゃぁぁ待つにゃぁぁぁっ?!」 「ああ秋葉さん、待って下さいー!!」 何だか先程よりも複雑に絡んで、二人が後を跳ね追いて来る。 玄関に入ると、待合室。 町から離れた夜の空間は、とても―――静か。 主立った灯をおとされた室内で、古びた清涼飲料水の自販機が煌々と部屋を照らし出している。 廊下の奥では、琥珀を詰問する秋葉の声と、それをたしなめる宗玄の声。 結局、志貴には平穏な日常訪れず、でも人の繋がりの暖かな日々がこれからも続くのだろう。
■Return■ |
|